傾いた日に、都市は赤く染められている。巨大なビルが立ち並ぶ大都市。しかしその一区画。一部は瓦礫の海と化し、普段は多くの人が行き交い賑わう街に人影はない。道路には時が止まったように数え切れないほどの車が放置されている。動くのは四つの巨影だけだ。


 静まり返った街に響くのは鈍い打撃音と液体が吹き出し、地面を打つ音、地響きと破砕音。そして。

「あぁっ! ……うぅ、うっ! きゃあっ! 」

 少女の呻き声と悲鳴。

 二匹の巨大怪獣と一人の巨大異星人が、一人の巨大な少女を取り囲んでいる。

 少女の銀色の身体は傷と汚れでその本来の輝きを曇らせている。いくつもの裂傷、噛傷が血を溢れさせる。ふくらはぎの肉は食いちぎられ、足首を赤黒く腫らした右足はその脚線美を崩され、役割を果たしていない。

 

 銀色の肌の巨大な少女の名はソフィー。突如現れ街を破壊し始めた巨大異星人、ティム星人に対し一人、人々を護るため立ち向かった。ソフィーはティム星人を追い詰めていった。しかし、ティム星人が腰に携えたカプセルを二つ投げると、そこからそれぞれ怪獣が出現したのだ。一対三の戦い。戦況は瞬く間に一変した。

 

「くっ……、はあぁっ!! 」

 右足首を折られているソフィーは左足で飛び上がると同じ足で蹴りを放った。黒い岩のような外殻で覆われた怪獣の首を捉える。打撃の衝撃が風圧となり、巻き上げられる土埃によって可視化される。

 怪獣の巨体がぐらりと揺れアスファルトに倒れ込む。

   しかし、状況は好転しない。

「ぅっ……!?」

 ソフィーの左足に痛みが走る。

 極めて硬い外殻への攻撃には相応の反動が、ダメージとして返ってくる。

「あぁっ……んっ! 、くっ! 」

 すぐさまティム星人の蛇腹剣がしなり、着地に隙のできたソフィーの背中を斬りつけた。

 血を吹き出させながらも振り返り、今度はティム星人へ向かっていくソフィー。

 そこに横からもう一匹の怪獣が襲いかかる。全身が硬く尖った外殻に覆われた大爪の怪獣。

「きゃあっ……! 」

 血しぶきが舞う。

 怪獣の鋭い爪がソフィーの脇腹を深々と抉った。

 反射的に身を捩り半回転しながら倒れ込んできたソフィーの背を、ティム星人が受け止める。

「他愛ないな、ソフィーよ」

「はぁ、はぁ……うぅ……」

 ティム聖人の手が、力なく預けられたソフィーの傷だらけの身体をまさぐる。

 武器を操る宇宙人に加え二匹の強力な怪獣が相手ではソフィーと言えど為す術がない。まるで玩具のように二匹と一人の間で回され痛めつけられる。

 ソフィーの蹴りで地面に倒された怪獣も起き上がり、二匹の怪獣がソフィーに迫る。

 銀色の身体は、未だ侵略者の手に囚われている。

「うっ、くっ! 」

「ん?」

 身を捩ってもがき、ティム星人の脇腹を肘で打つソフィー。

「いいぞ、もっとあがけ!地球人どもにその無様な姿を晒すが良い!」

「あんっ!」

 力なく打ち付けられるソフィーの肘など意にも介さず、ティム星人はソフィーの背を蹴り飛ばす。

「あっ、がっ……はぁうぅっ!! 」

 黒甲殻の怪獣が足元に転がった銀の身体を蹴り転がし、高く上げた足で力強く踏みつける。

「ぅぁぁぁっ……!! 」

 引き締まった少女の腹に怪獣の足が吸い込まれるようにめり込み、少女から掠れるような悲鳴を絞り出す。

「うっ……あっ……!! 」

 怪獣が足を放し、銀色の身体を圧力から開放する。身を縮こまらせて咳き込むソフィーを引き立たせると、振りかぶった厳つく巨大な手を叩きつけ、振り抜いた。

 短い悲鳴をあげるソフィー。顔の右側の灼けるような痛みに目は開くこともできず、聴覚は耳鳴りに支配された。

 たたらを踏み崩れ落ちそうになる身体が大爪の怪獣の体当たりに弾き飛ばされる。

「おっとぉ」

勢い良く衝突し、再びティム星人の胸にもたれかかったのもつかの間、突き飛ばされ裏拳に頬を撃たれる。

「うぅっ! ……ぅっ、きゃあっ!? あぁっ! ……あううぅ!? 」

弄ばれるように痛めつけられるソフィーは、もはや呻きを漏らし、悲鳴をあげることしかできない。

「……ぁっ、はぁ……はぁ……」

 大爪の怪獣の胸に受け止められたところでようやく少女の身体はその動きを止めた。戦士としての本能か、ソフィーは倒れまいと怪獣の身体にすがりつく。

 胸のカラータイマーが放つ光の色が、ソフィーのエネルギーが残り少ないことを示している。

 息つく間もなく降り注ぐ暴力に、閉じられていた目をようやく開く。右目は腫れ上がり、開くことができるのは左目だけ。しかしその左目もまたすぐに固く閉じられる。

「あうううううぅっ……!! 」

「くくく……」

 ティム星人が直剣状にした蛇腹剣を使いソフィーの傷ついた右足をいたぶる。抉れたふくらはぎをつつき、腫れ上がった足首を叩く。

「もはや自力では立ってはいられまい。立つのを手伝ってやれ」

ティム星人が大爪の怪獣に指示する。

 力なくその身を預けていたソフィーの身体が強張る。

「うあああああっ……!! 」

掴まれた腕に、怪獣の鋭い爪が食い込み、突き刺さっていく。絞り出されるように溢れる鮮血。

「あっ、ああっ、ぃやあああああぁっ!! 」

 ソフィーの悲鳴は途切れない。

 今やソフィーを唯一支える左足。その左足への執拗な蹴りの嵐。

「良い鳴き声だ! そら! そら! そらぁっ!! 」

 打たれる度、引き締まっていながらも柔らかな太ももの肉が艶かしく揺れる。何度も崩れ落ちそうになる身体とそれを許さない怪獣の拘束。ソフィーの左足は内出血でみるみるその色を変えていく。まともに受け続けていては左足までもが破壊されてしまう。しかし左足から体重を逃がせば痛みきった右足が悲鳴を上げる。逃れられない激痛。

 ソフィーの頬を涙がつたう。

「……ゃめ……て……」

歯を食いしばり、喘ぎと悲鳴を必死におさえ無意識にこぼした言葉にはっとするソフィー。

「ほう?なんだぁ? よく聞こえんなぁ? 」

 崩れ落ちそうな身体を掴み上げられた腕に支えられているソフィーにぴったりと密着するようにティム星人が体を重ねる。

 「ぃゃっ……あっ……! 」

 突き出された形となり、無防備にさらされたその扇情的な尻にティム星人の手が伸びる。美しい丸みをなぞるように撫で、ツヤのある尻たぶを鷲掴みにしてその形を歪める。

「やめて、と言ったか?それは、降伏と思っていいのか?」

「うぅっ、んっ、んんっ……! 」

 耳元では下卑た囁き、尻と股ぐらを好き放題にされるがままの少女の身体。血が出るほどに唇を噛み締めても、否が応にも、声が漏れてしまう。

「ん? どうした? 震えているのか? 」

傷だらけになりながらもなお輝く銀色の、少女の身体。柔らかな乳房や尻、太ももが揺れ、反射する光の揺らぎが艶めかしい身体の震えを如実に表してしまう。しかし、その潤んだ左目が下劣な宇宙人を鋭く見据える。

 ふっと、ティム星人が息をつき身を起こす。

「あぁっ! 」

ソフィーの脇腹に拳を叩きつけるティム星人。

「あっ、あうっ、うぐっぅぅ!! 」

「生意気な……! 眼だ! 許しを請え! 鳴け! 泣け! ……哭けえぇっ! 」

 打ちつけられる拳に一糸まとわぬ身体は跳ね、意志とは無関係に膨らみを躍らせる。

「ひっ、くうううううぅぅっ……!! 」

 ティム星人の手が、ソフィーの股間の肉を握りつぶす。

 猥褻でサディスティックな責めに少女は甲高い悲鳴を抑えられない。

「ふははっ、情けない悲鳴だなぁ! だが、実に甘美だ……」

 漏れてしまう呻き声が、苦痛に喘ぐ少女の吐息を悩ましげなものにする。

 痙攣したように震える銀色の肢体。

 激しく責め立てたティム星人の息も弾む。

 ティム星人が剣を地面に突き立て手放す。掴み上げたままの股肉を指で撫で、空いた手を少女の腹に、二つの膨らみに向かって這わせる。

「くくく、生意気に、そそるなぁ……。どうだ? このまま、女の悦びを教えてやったも良いの……」

 もう戦いは終わったとでも言うように、下劣な宇宙人の指が少女の乳房にくぼみをつくったときだった。

「ああああああぁっ……!! 」

「ぐあぁっ……! 」

「……ッ! 」

 銀色の身体を稲妻のような閃光が走り、密着していた怪獣と宇宙人を跳ね除けた。

すでに赤く光っていた胸のランプは燃えるような強い光を発しを、ソフィーの身体がまばゆい輝き放つ。

 限界以上に出力を引き上げられたエネルギー器官の核。絞り出されたエネルギーがソフィーの全身を駆け巡る。

「小娘が、まだこんな力を……」

 言い終える前に、光の刃がティム星人のすぐ脇を通り過ぎる。

「ギャッ……!! 」

 黄金に輝く刃が頑強な黒い甲殻を斬り裂く。抉れた胸から血を吹き出し、怪獣が倒れる。

「なっ……」 

 ティム星人がソフィーに視線を戻したそのとき、ソフィーと肉薄し向かい合っていた大爪の怪獣の身体は、バラバラになり崩れ落ちた。

「はぁっ、はぁっ」

 ティム星人へと向き直るソフィー。肩が上下し、息が激しく乱れる。

「ぐっ、うぅっ……! 」

 胸をおさえ、呻き声をあげ苦しむソフィー。胸のカラータイマーに亀裂が走る。

 ほんの数秒。しかし、限界を越えた力の開放に身体が悲鳴をあげる。

 危機を脱したものの、エネルギー出力開放の代償は大きく、ソフィーの身体を蝕む。危険な賭けだった。

 息を切らしながらも、ソフィーの左目が、再び眼光鋭くティム星人を見据える。

「ふーっ、ふーっ、ぐっ、ううううぅああぁぁぁ……!! 」

吠えるソフィーの足元からエネルギーの奔流がまばゆい緑色の光となって立ち上る。

「ま、待て! そんなものを撃てば……」

 凄まじいエネルギーの迸りにうろたえた様子を見せるティム星人。

 疲弊した身体からエネルギーをかき集め絞り出す。全てを懸けた一撃。必殺の光線。しかし。

「がっ、あっ……! 」

 突如上空から飛来した翼竜がソフィーを地面に叩き潰す。

 ソフィーの身体から発せられていた光が霧散する。

「馬鹿め! この程度の戦力で星一つを侵略しにくると思うか!? 」

 ティム星人の指が天を指し示す。

 何もなかった空が揺らぎ、そこに巨大な円盤型の宇宙船が姿を現した。

「あっ、あぁっ……!? 」

 ティム星人が指差した先、それを見た瞬間、翼竜に押さえつけられたソフィーの表情が絶望のそれへと変わる。

 円盤の周りを飛び回る翼竜と魚のような怪獣の大群。

「貴様の力も想定したうえで、もうこの星を侵略する準備は整っているんだよ」

 いいながら腰のカプセルを放り投げる。

 巻き上げられた砂煙の中から、ソフィーの目の前に現れる巨獣。巨体を誇っていた黒甲殻の怪獣よりさらに巨大。像のような鼻と牙。短いが極太の足。厳つく逞しい両腕。その腕の先からは何本もの触手が伸びる。

「あぁっ! 」

 巨獣の震脚が大地を割り、押さえつけていた翼竜ごとソフィーの身体が衝撃波によって吹き飛ばされる。

「こいつの力はさっきの二匹の比ではないぞ、小娘ぇ…… 

 勝利を確信し、高らかに笑い声を上げるティム星人。

「くっ、うぅっ……」

 立ち上がり、再びエネルギーを迸らせるソフィー。

 空中で体勢を立て直していた翼竜が再びソフィーに襲いかかろうとするのをティム星人が静止する。

「くくく、良いぞ。好きにさせてやる。力を出しつくせ、すべてをぶつけてみせろ。そうでなければ貴様も、地球人も、絶望しきれないだろう……ふはははは!! 」

「あああああああぁっ……!! 」

 ソフィーが叫ぶ。水平に構え握った左手に右腕を立てる。L字に組まれた両腕からまばゆい閃光が放たれる。

 ライトニング・レイ。大量のエネルギー消費と引き換えに放つソフィーの必殺光線。それもエネルギーの出力を限界を越えて引き上げて放った切り札中の切り札。

 超高密度の破壊エネルギーが長鼻の巨獣を撃つ。

「……!? 」

 しかし、閃光は巨獣を穿てない。光線は弾かれたように散らされ、巨獣の後方へと飛び散り爆発を起こす。

 長鼻の巨獣の前面に禍々しく赤い光の膜が輝き、ライトニング・レイを蹴散らす。ソフィーの全てを振り絞った最大最強の一撃をもってしても破れない。

「くっ、うっわああああぁっ……!! 」

 両目を硬く閉じ、悲鳴にも似た声をあげ、ソフィーが更に力を込める。

 閃光が太くなり、その光を更に増す。

 だが、巨獣はそれをもろともせず、歩みを進める。力を振り絞るソフィーに向かって、エネルギーの奔流をかきわけ一歩、また一歩と足を踏み出す。

「ごぼっ、はぁっ、ふぅっ、うぐっ、ううぅっ……!! 」

 吐血。目や鼻からも血が流れ、傷口から漏れたエネルギーがショートする。胸の奥のエネルギー回路が高熱を持ち火花を散らす。

 灼けるような胸の痛みがソフィーに危険を知らせる。ソフィーの身体は、すでに限界を越えている。それでも、すがるしかない。この一撃で決着をつけなければどのみちもう打つ手はない。エネルギーは使い果たし、これ以上の威力をもった技もない。

 ライトニングレイの閃光が巨獣の接近にともなって短くなっていく。

 ついに、巨獣はソフィーの目の前まで迫っていた。

「あっ……きゃあああぁっ!? 」

 巨獣の手が、閃光もろともソフィーの最後の希望をかき消す。巨獣がソフィーの右腕を掴む。巨獣の触手状の手の隙間から、まばゆい光が漏れ、次の瞬間起きる大爆発。行き場をなくしたエネルギーが巨獣の手の中で爆発を起こした。

 砂埃と黒煙の中から現れる。

「あ……あぁっ……」

 掴まれた右腕で宙吊りになった銀肌の少女と、無傷の巨獣。痙攣するソフィーの右手。どくどくと溢れ出す血が、自らのエネルギーの爆発に灼かれた腕をつたう。

「あうっ……!」

 巨獣はソフィーの右腕を掴んだままその身体を引き倒した。

そして一瞬、両手で掴んだ右腕を持ち上げるように巨体が背筋を伸ばす。

「ああああああああぁっ……あっ……ああああああああぁっ……!?」

 木の幹が裂け折れるような破砕音と、ちぎれるような断裂音。

 巨獣は掴んだソフィーの右腕を頂点とし、上から潰すようにその右腕をあらぬ方向にねじ折った。

「あっ……あっ……! うぅー! ぁううぅっ! ……あああああぁっ!! 」

 呻き、喘ぎ、叫び声をあげ身体を暴れさせるソフィーの背中を巨獣の足が踏み潰す。

「かっ……ぁぁっ……」

ソフィーの背を覆うほどに巨大な足が、その圧倒的体躯による超重量に加え凄まじい力で踏み潰す。ソフィーの口から逆流した胃液を溢れさせ、かすれた悲鳴を絞り出す。

「ああああああっ……!! 」

 ソフィーの悲鳴が一層悲痛なものに変わる。

 押しつぶされ圧迫される胸に、ピキピキと亀裂音が響く。

 力の開放により亀裂が生じたカラータイマーがとてつもない力で圧迫され今にも砕けんと、その危機を激痛としてソフィーに警告する。

 泣きわめく巨大な少女にティム星人が近づいていく。苦しみもがく姿を見下ろし、蛇腹剣を振りかざす。

「あああああああぁっ!! 」

 蛇腹剣が、ソフィーの柔らかな右太ももを貫き、地面に縫い付ける。

 ティム星人は巨獣を離れさせ、紅蓮色の美しい髪を鷲掴みにすると、悲鳴をあげるソフィーの顔面を地面に叩きつけ黙らせる。

「んっ、んんんんんっ!! 」

「聞け」

くぐもった悲鳴をあげるソフィーの耳元で囁く。

「もはや立ち向かう術すらあるまい。この剣でその胸の光を貫けば、その首をひねれば、……命を奪うなど容易い。くくく」

「うぅ、うっ、うぅっ……」

 自分の死と、その後に訪れる地球の人々の危機が目に浮かび、涙をこぼすソフィー。

「だが、見逃してやる」

 耳元。ソフィーにだけ聞こえるように囁かれたティム星人の意外な言葉に、ソフィーの身体は一瞬びくっと痙攣し、固まった。

「逃げ帰り、もう一度向かってこい。それが、「協力者」の望みだ」

 そんなことをしてなんの意味があるのか、「協力者」とは何者か。気になることはあったが、今のソフィーにそんなことを考えている余裕はない。目の前に突如提示された希望に心は向けられ離れない。

「明朝だ。俺達はこの星に攻撃を仕掛ける。傷を癒やす時間もないだろうが、まさかこの星の人間を見捨てたりしないよなぁ……くくく」

 明朝。とても傷を癒せるほどの時間はない。

 この場を生き延びる希望と、後に控える圧倒的絶望にソフィーの目が潤む。

「そして……」

「あうっ!? 」

「これを打てと言われていてね」

 ティム星人はソフィーの首筋に注射銃で薬液を打ち込んだ。

「なに……を……あぁっ! うあっ!? ああああああぁっ……!! 

 ティム星人がソフィーを地面に縫い付けていた蛇腹剣の連結を解いて、一刃一刃引き抜いていく。

「あぁっ! はぁ……はぁ……」

「くくく……」

 最後の一刃が引き抜かれた。

 涙にまみれたソフィーの表情は虚ろ。闘志はおろか、恐怖も屈辱ももはや表さない。

「さぁ、行け……」

「あうっ!? 

 投げ放たれ、ビルを崩壊させ息も絶え絶えにその身を預けるソフィー。

 ティム星人の蛇腹剣が振りかぶられる。

「うっ……」

 絶望的な状況。満身創痍のソフィーにはティム星人の言うとおりにする他ない。ソフィーは身を翻し敵に背を向け、足を引きずりながらも離れる。あまりに緩慢なその動き。

 しかし、ティム星人も巨獣も動かない。

 銀色の巨大な少女は飛び上がると、光となって何処かへ消えていった。


 地球人の目に映ったのは、完膚なきまでに叩きのめされ、命からがら逃げ出す守護者の姿だった。


 夕日が沈み、夜の帳が下りる。


 破壊された街の路地。傷だらけの少女がビルの壁にその身を預けている。

 ズタズタに傷つけられた右足は引きずられ、流れる血が、少女の足取りを示す。

「あぁ……はぁ、はぁ、……ぁっ」

 赤黒く腫れ上がった右腕を、抱えるように支えていた左腕から力が抜け落ちる。

 少女はビルにもたれた身をずるずると崩れさせ、ボロボロになった銀色の身体をぐったりと横たえた。